※会報誌22号 P1-2『「夢中!」腹話術・ロゴスの腹話術』より抜粋
春風とんぼ
1955年(昭和30年)12月 クリスマスを前に、得意になって、イエス様のお話を満員の子どもたちにしていました。そうです。遊び場の少ない超田舎町、子どもたちは、教会しか行くところがなかったのです。
突然「懐かしい懐かしいこの調べ…」カレー会社の宣伝カーが、大音声を上げて教会の前に止ったのです。小さな粗末な教会。話の下手な先生は一瞬のうちに敗北、子ども達は宣伝カーに向かって走り出てしまいました。
何か? 知らない…あれ人形?人間?何かわからないものが「このカレーおいしいよ」「このカレー食べると、頭が良くなるよー」と叫ぶと村中の人が…と言う位、近くの人や教会学校の子どもたちが、いっせいにサンプルや、商品をめがけて、突進するのです。
私も思わず、つられて駆けよりました。なんだこれは。あの喋る物体は。一体何者なんだとあっけにとられました。
「えー!これが腹話術の人形? あんなに自由自在にお話ができるの? へー!」「そうか、このお人形一体手に入れることができたら、聖書のお話なんかオチャノコサイサイ」。
腹話術という芸がこの世の中に存在することを知ったのは、この時が初めてでした。
てっきり、人形が全てを喋るのだ、何か特別の装置が付けられているのに違いないと思い、早速カレー会社を訪ねました。
会社の人は全然相手にしてくれません。話によると、東京や大阪の寄席で大うけだって!教えられた寄席を、訪ねました。ここでも全ったく、けんもホロロ。腹話術は、教えるものではなく、教わるものでもない。不思議な芸であるだけに、盗みとって自分のものにつくり上げるものだと言うのです。看板を見ますと、古川ロッパさんとか三遊亭小金馬さんなど、当時すでに超有名人が隠し芸にくみ入れて活躍していた芸であったからです。
あきらめました。盗み取り何かする時間も方法も、何も知る手立てが判らなかったからです。いつしか忘れてしまいました。
それから14年。
1969年(昭和44年)4月。教会の牧師から、新丸子教会の野田市朗牧師を附属幼稚園の入園記念講演講師にお迎えするから来ないかとのお誘いを受けました。なんと、なんと。野田市朗牧師はNHKテレビで「ある人生」に出演し、今や日本中の教会から引っぱりだこの腹話術師だから紹介してあげようと言われたのにびっくり驚天(仰天)。
しかし日程を見ると、当日は幼稚園から100kmも離れた地で、本業が関わる重大な医薬品の年間競争入札日当日。あきらめざるを得ませんでした。
不思議・奇跡・神さまのご配慮
奇跡はあるのです。
まず、入札が急にとり止めになり、もしかしたら野田牧師の演技出演時間に間に合うかもしれぬ。喜びが急にふくらみました。しかし途中の交通渋滞で悲観。甘くないなぁ。
幼稚園へ、悲観を伝えました。えー!えー!なんと野田牧師の乗車した列車が大幅に遅延!それなら間に合いそう。喜びと悲しみが交互にやってくるのです。
お目にかかれました。
園児は当時の当然のこと、親も職員も大爆笑に続く大爆笑。私はこんな牧師先生に紹介され、教会のご奉仕が出来ることに感動しました。
しかしです。野田牧師は、先程迄のものすごい笑顔はどこへやら。主旨をお話ししても一言もお返事がない。希望に溢れていただけに絶望との落差の大きいこと。わかりますか?この時の気持ち。次又奇跡が発生。なんと野田牧師を名古屋駅へお送りする運転手が急病? 教会の牧師から野田先生をお送りしてほしいと指示されました。いやだなぁ。希望を聞き入れてくれないのに。非常に心の重い時が来ました。
悲喜こもごもと言う表現使って良いかな?
私の腹話術との出会いは、このような不思議な絡みの中に誕生したのです。
初心者講習会に参加。喜びの爆発発生!
師匠に お目にかかってから幾日か経過しました。受講のチャンスが来るのか。不安な時はどんどん過ぎて仕事も手がつきません。
突然6月、大阪クリスチャンセンターで行われる初心者研修会にお誘いが来ました。
一人欠員が出たからという案内です。
大きな鯨に、小さいつり針が喰い込んだ。もう絶対放さないぞ。幾多の不思議な時ではあったが、最初で最後のチャンスとばかり、会社の業務も強引に変えて大阪へ出かけました。第5期ロゴス腹話術初心者研修会です。
講師は師匠の他、先輩春風5人。
受講生21名 その中には後々ロゴスを背負ってくれた春風小イチローさんが居りました。ものすごく上手 。人形の扱い、ことばの通い、すべてロゴスに精通しているのにびっくりしました。すでに完成した人でした。
むさぼるように、夢中になって!
発声の仕方、お人形の動作と一体になるには、人の心に沁み込むことば。お人形との通い、お人形との一体、その技を産み出す台本。困難はいっぱい、いっぱいあります。上手な腹話術、面白い腹話術はどうしたら作り出せるか。
あっ!技はほどほど出来ても…心は? ロゴスに絶対なことは「心と技」とききましたが、心をどの位置におくのか。
大阪の研修会の2泊3日は夢のように過ぎました。研修を受けた翌日には既に出演を約束していた近郊の教会に伺いました。散々の出来でしたが、なんとか終えました。
むさぼる、夢中、熱中、辞書にある熱心という言葉全部集中して学び取ったと言っても良いでしょう。メモをとりまくりました。それを自分なりに構成してみました。どうしたらこの名古屋に腹話術のメッカを築き上げることが出来るかに、自分の時間は全て使ったと言えるくらい使ったでしょう。
それから10年間、会社の休暇、休日は全てロゴスの吸収に用いました。
お人形の分身が私。お人形の子分が私。好きも嫌いも言える間ではありません。人形に嫌われたくない。一身同体、師匠の仰言ることばは、テープ、メモにぎっしり刻み込むことに成功したと思っています。
お人形、好きですか? 当然です。好きも嫌いも、もう言えた間柄ではない。もう一度言います。
一身同体です。一心同体です。
師匠が記録は、とんぼに聞けと言って下さるところに到着したと思いました。
ロゴスの腹話術は、素人にでも出来るように考案してくれましたが、「心と技」そのきまりの中に埋没してくださいと伺いました。
きまりを忘れてはロゴスの腹話術になりません。
1 笑顔・はずむ声・穏やかな目線
2 人形に息を吹きこむ、心も体も通い。
3 打音・9パタ・まばたき 4・0の「ま」
あ、その次は、その次は楽しみにお待ちください。
私にとって今一度、まとめに入ります。
イチロー師匠からの葉書き